360人殺しのルーカス


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”オレにとって殺人は息をするのと同じだった”

精神分析医に彼は平然とそう呟いた。

息をするように人を殺すこの残虐な殺人鬼は、後に「360人殺しのルーカス」と呼ばれ、トマス・ハリスの作品に登場する連続殺人者『ハンニバル・レクター』のモデルともなった。

1936年8月16日、ヘンリー・リー・ルーカスはその望まれない生を受けた。

母親のヴィオラはありとあらゆる変態行為をよろこんで請け負うことで有名な売春婦で、12歳のときからこの稼業をやっていた。

ルーカスは彼女にとって11番目の子であった。

彼女は非常に商売熱心な女で、ルーカスが生まれる直前まで「妊婦の腹を蹴りとばしてみたいサド男」を募集したり、生まれてくる子供が女の子だったら母娘で共稼ぎするつもりだったようで、

”娘が生まれたらよろしくね。ふたりでいっぱいサービスするわ”

などと顔見知りにふれまわっていたという。

だが、期待に反して生まれたのは男の子。

父は「ヘンリー」と名付けたが、ヴィオラはその子を「ヘンリエッタ」と呼び、女児用の服を着せていた。

父は元鉄道員。

しかしアル中で、泥酔中に徐行した貨車に轢かれて両足を切断されていた。

密造酒を作ったり、ミンクの皮はぎや、鉛筆売りでなんとか金を得ていた。

だが密造酒の半分以上は自分で飲んでしまったし、蒸留器の番はほとんどルーカスにやらせていた。

おかげでルーカスは10歳にならないうちから酒の味を覚えた。

ヴィオラは赤ん坊の頃からルーカスを虐待した。

意味もなく殴りつけ、夜泣きをすれば床に叩きつけ、焼けた針を柔らかな肌に突き刺した。

彼女は今までの子供はすべて施設に預けるか、売り飛ばすかしていたが、なぜかヘンリーだけは育てる気になったらしい。

ことあるごとにヴィオラはルーカスをこう嘲笑った。

”おまえは、死ぬまであたしの奴隷なんだ”

ヴィオラが度を越した異常性格者であったことは明らかである。

ルーカスのもっとも古い記憶は、客と行為を終えたヴィオラが突然ショットガンを持ち出して、その男の脚を撃ち抜いた、というものである。

”ベッドから男が悲鳴をあげながら転がり落ちてきて……俺の全身にも血がはねかかった。おふくろは血まみれで、ゲラゲラ笑ってたっけ”

ヴィオラは、ことあるごとに夫とルーカスを虐待し、気に入らないことがあると、角材で頭を殴りつけていた。

幼かったルーカスは殴られて気を失い、病院に運ばれたこともある。

また、ルーカスに対する虐待の一環として、頭にチリチリのパーマをかけさせ、靴も履かせず女の子の格好をさせて3年間も学校に通わせたり、ヴィオラはロリコンの傾向がある客をとって、ルーカスに女の子の格好をさせたまま行為を見ているよう強制したりもした。

また、ヴィオラは夫に向かっても、

”せめて足でもありゃ、あんたにも女装させて客をとってやれるんだが”

などと忌々しそうに言っていたという。

夫はぶつぶつ言いながらも表立って反論することはなかった。

彼はマゾヒストで、足の切断部分をヴィオラに踏みつけてもらうのが大のお気に入りだった。

ヴィオラもまた、好きなときに好きなだけ殴りつけられる相手を欲していた。

夫とルーカスは彼女の気分によって、意味もなく殴られた。

”どうしてそんなにぶつの、っておふくろに訊いたことがあったよ。そしたらあの女『おまえの脳味噌を床にぶちまけてみたいのさ』って言いやがった”

そんなルーカスの人生で、救いの手を差し伸べてくれた人が3人いる。

そのうちの2人は小学校教師であった。

彼の家庭環境に同情し、ルーカスの髪を男の子らしくカットしてくれ、ズボンを買ってくれた。

また生まれてはじめて彼に「あたたかい食事」というものをふるまった人物でもあった。

ルーカスは生まれてからというものずっと慢性の栄養失調で、父親といっしょに残飯を漁って飢えをしのぐことも珍しくなかった。

しかし、ヴィオラはこの2人の出現に激怒し、パニック状態に陥った。

そして彼女の折檻は前にも増して苛烈なものとなったのだった。

ある日、ストーブにくべる薪を取りにいけと命じられたルーカスは、ちょうど靴ヒモを結んでいたところだったので「ちょっと待って」と言った。

ヴィオラはそれを聞くやいなや、ルーカスの頭を2×4の角材で殴りつけた。

一撃でルーカスは昏倒したが、激昂した彼女はなおも我が子を殴りつづけた。

頭皮が半分ほど剥け、頭蓋骨が割れた。

ヴィオラは彼を戸外に叩きだすと、酔っ払って寝てしまった。

ルーカスはそれから3日以上昏睡していたという。

怖くなったヴィオラのボーイフレンドがついにルーカスを病院に運ぶも、ヴィオラは「梯子から落ちた」と医師に説明したのだった。

この負傷以来、しばしばルーカスは癲癇や失神の発作を起こすようになる。

そんなある日、3人目の救いの手があらわれた。

ルーカスが8歳になったとき、雪道を裸足で歩く少年に仰天したトラック運転手が、彼を助手席に乗せ、靴と靴下を買ってくれたのだ。

ルーカスは礼を言って運転手と別れた。

ルーカスが家に帰ると、ヴィオラは息子の姿を見て激怒した。

”靴なんか買ってもらって、この馬鹿。なんで現金をもらってこないんだよ”

その日、ルーカスは気絶するまで殴られた。

数日後、その運転手が妻と共にルーカス家を訪ねてきた。

子供がいないので、よかったらルーカスを養子に欲しい、というのである。

しかしヴィオラは、

”てめえらの股ぐらが役たたずだからって、あたしになんの関係があるのさ。おばちゃん、ほら見な、これがまともな女のもんってやつさ”

そう言ってスカートをめくりあげ、下着をおろして見せた。

夫婦は蒼白になって逃げ帰った。

”おふくろは、完全なきちがいだった”

後年、ルーカスはこう語った。

当時ルーカスと唯一親交があったのは腹違いの兄である。

ルーカスはヴィオラの目を盗んで兄と遊んでいた。

夏休み中のことだった。

兄が森で、ナイフで枝を切り払って遊んでいると、偶然そこにルーカスが顔を出した。

刃先がルーカスの左眼球をかすめ、流血。

2人は母親にこれが知れるのを恐れ、川の水で傷を洗って応急処置を施した。

家に帰り、顔に布をあてたルーカスを見て、ヴィオラは「間抜け」と嘲笑い、傷口を箒の柄で突いた。

再び出血がはじまった。

それからもことあるごとに、彼女は息子の傷口をつついて愉しんでいた。

傷はたちまち化膿し、顔面の左半分がふくれあがった。

ぼんやりとしかものが見えない。

夏休みが終わり登校したルーカスを見て、彼に好意的な2人の教師が愕然とし、病院へ連れていった。

もはや眼球はかなり危険な状態だったという。

だが不幸はここで終わらなかった。

その教師の授業中、いたずらをしている少年がいた。

注意したが、その子はいたずらをやめない。

教師が少年を叩こうと定規を振りあげた。

しかし少年は頭を下げてこれをかわす。

定規は真後ろにいたルーカスの、ちょうど左目を直撃した。

すさまじい悲鳴があがった。眼球が破裂したのだ。

学校から連絡を受けたヴィオラは喜び勇んで、この教師をなじり、もう1人の教師と共に二度とルーカスに近づけられないよう、校長に承諾をとりつけた。

ヴィオラは学校からの補償金で、一番安い義眼を彼に買い与えた。

そして残りの金は飲み代に消えた。

以来ずっと、ルーカスは義眼をはめている。

また、ルーカスには、ペットがいた。ラバである。

ルーカスはこのラバをとても可愛がり、寝食をともにした。

ヴィオラは、ルーカスに向かって「お前は、あのラバが好きかい?」と尋ねた。

ルーカスが「うん。」と言うと、すぐにショットガンを持ちだしてきて、ラバを射殺した。

それから母親は、これでまたラバの死体を片づけるのに金がかかる、と言って彼を殴った。

ヘンリー・リー・ルーカスには誰に愛されることも、なにものかを愛することも許されなかった。

そんな折、父親が死んだ。

その夜、彼はいつものように妻が客と変態行為に耽るのを見物させられていた。

彼は吐き気をもよおすまで我慢していたが、やがて雪の降りしきる戸外に出ていった。

そして数日後、彼は急性肺炎であっけなく死んでしまった。

ルーカスは14歳。

すでにもう、すべてを失っていた。

この頃から、ルーカスの奇行がはじまる。

ルーカスは学校に行くのをやめ、兄と近親相姦の同性愛行為にふけった。

また、「デュッセルドルフの吸血鬼」とも呼ばれたペーター・キュルテンがしたように、動物の首をかき切りながら獣姦を行なった。

もう彼は家に帰るのはごめんだと思っていた。

街へ行っては金や食べ物を盗み、森に住みついた。

しかし兄は年齢を偽って海軍に入隊し、この悲惨な生活からの逃亡に成功する。

ルーカスもあとを追おうとしたが、左眼球のない少年を軍が受け入れるはずもなかった。

”ほれ見な。あんたみたいなクズをひきとってくれるとこなんかあるもんか。おまえは一生あたしの奴隷として生きて、くたばるんだよ”

ヴィオラは勝ち誇って狂ったように笑った。

15歳になったルーカスがある日帰宅してみると、母親が客と重度のスカトロ行為の真っ最中だった。

気分が悪くなり、彼はむしゃくしゃしたまま外へ出るとバス停でバスを待っている17歳の少女がいた。

ルーカスはこれをつかまえ、レイプして絞殺した。

これが彼の人生において初めての殺人である。

彼はしばらく、この件でいつ捕まるかとビクビクしながら過ごしていたが、この真犯人が知れるのは33年後、本人の自供をもってしてであった。

同年、ルーカスは住居侵入の罪ではじめて少年院送りになった。

だがヴィオラの折檻に比べれば、鑑別所の扱いははるかにマシだった。

この少年院こそすぐ出院になったものの、23歳になるまで彼は、ほとんど服役と出所を繰りかえすこととなる。

23歳で出所したルーカスは、義姉のもとに身を寄せ、そこで恋に落ちた。

二人は結婚を約束し、ルーカスは生まれて初めてまともに働こうと、職探しに奔走した。

しかし、そんなルーカスのもとに現れたのはやはりヴィオラだった。

彼女はルーカスが幸せになることを決して許さなかった。

”この不細工な淫売と結婚するなんて気でも違ったのかい?”

などと言ってルーカスを罵倒するのだった。

ルーカスは今までにない激しい頭痛の発作を感じ、うずくまった。

”もう母親の金切り声を聞くのは沢山だ”

ルーカスはヴィオラを人気のないところへと連れ出した。

そして、ついに幼いころからの呪縛を解き放つべく、母親の首を絞め、殺した。

すでに死体と化している母親の身体をナイフで何回も突き刺し、母の服を脱がせ、そして血まみれの母の死体を犯した。

彼は母親の喉を、ナイフでなめらかに切り裂いた。

生まれてこのかたずっと聞かされていた金切り声が、ゴボゴボという空気の漏れるだけの音になった。

彼は安心したが、充分ではなかった。

もはやあの声は聞きたくなかった。

傷の裂け目に手を突っ込み、頚骨を引きずりだそうとした。

70%ほど頚骨が露出したところでやめ、ルーカスは母親を置きざりにしてその場を去った。

14時間後、なりゆきを心配した義姉が様子を見に来て、瀕死のヴィオラを発見した。

だが、もう手遅れであった。

この事件はすぐに警察の捜査が入り、ルーカスはあっさり捕まった。

そして第二級謀殺として実刑40年の判決を受けた。

刑務所に収監されてから、ルーカスはヴィオラの亡霊に悩まされ続けた。

彼はヴィオラの亡霊から逃れるために幾度も自殺未遂を繰り返し、精神分析医によって精神分裂病であると診断された。

にも関わらず、どういうわけか仮釈放審査会はルーカスの仮釈放を何らの問題もなく認めたのである。(当時、囚人ひとりにつき、年間2万ドル近くの費用がかかっていたせいもある)

自分の心に巣食った闇を熟知していたルーカスは審査会をあざ笑うかのように言い放った。

”俺はまだ外に出て行けるような人間じゃない。約束しよう、出るやいなや絶対誰かを殺すぜ”

その言葉通り、ルーカスは刑務所の門を出て数ブロックのところで一人の女性を絞殺し、金品を奪って去った。

ヘンリー・リー・ルーカスの殺人行脚が本格的にはじまった。

彼はまだ、34歳であった。

ルーカスは後にこう述べている。

”人生のすべてがいやでたまらなかった。あらゆる人間が憎かった。なにもかもだ。俺は敵意の塊だった。好きなものなんか何ひとつなかった”

彼は何度か女性と交渉を持ったが、あれほど嫌い、憎んでいたにも関わらず、彼の選んだ女はいつもどこかヴィオラに似ていたという。

そして結局その「ヴィオラ的」なところに耐えられず、逃げ出す――その繰りかえしだった。

そんな生活の中、彼は後の相棒、オーティス・トゥールと出会う。

このオーティスという男もまた、全米を放浪する連続殺人犯であった。

オーティスはIQが75しかないような男で、同性愛者の男と行為をしては金をもらって生活していた。

話をしてみると、子供のころ女装させられていたことや、親から虐待を受けたこと、そしてアル中であること――ルーカスとの共通点が次々と浮かび上がり、二人は意気投合した。

オーティスは同性愛者だったが、ふたりは性的な恋人にはならなかった。

彼らは殺人行為で「相棒」となったのだ。

”おれたちはありとあらゆる方法を試した。毒殺以外は”

と、後にルーカスは語った。

”切り刻んだし、吊るしたし、轢き殺したし、刺して、殴って……溺死もさせたし、あとえーと、磔(はりつけ)にしたこともあったっけ。魚みたいにおろして切り身にもしてやったよ。焼き殺したし、撃ち殺したし、あともちろん絞め殺したしね”

ルーカスの様子は実に淡々としたものだった。

一方、相棒オーティスのお気に入りは犠牲者のアキレス腱を切り、両腕の関節をはずしてから野に放ち、これを撃ち殺すか轢き殺す、というものだった。

ルーカスが「家のドアを開け閉めするように」簡単に殺人を犯すのに対し、オーティスの行為はいかにも異常者らしい。

彼は被害者の舌を切り取ってそれを保存し、弄ぶのが好きだった。

二人は、各地を点々としては無差別に殺人を繰り返し、最終的にルーカスが殺した人の数は、6年半で300人にも上ると言われている。

だが「怪物」キュルテンにも生涯唯一愛する女がいたように、ルーカスにもまたこの世でただ一人の恋人が現われる。

オーティス・トゥールの姪、フリーダである。

彼女は出会った当時9歳だったが、じきにルーカスの内縁の妻となった。

彼女は3年ほど鑑別所に叩きこまれたが、ふたりで脱走させ、殺人行脚の旅に加わらせた。

ルーカスはフリーダを、愛をこめて「ベッキー」と呼んだ。

ルーカスを全く怖がらずに自然に受け入れてくれる無垢な少女ベッキーにルーカスはいつしか心を奪われていったのである。

ルーカスにとって愛とは、セックスとまったく無縁なものでなければならなかった。

セックスがしたいだけなら、相手はいくらでもいる。ただ外へ出て行きさえすればいいのだ。

衝動にかられると彼は外へ行って気が済むまで犯し、そして殺し、彼女のもとへ帰った。

もちろんベッキーはつねに彼の味方で、彼のすべてを許した。

ルーカスとオーティス、ベッキーの三人は家族のように暮らしながら、100件にも上る殺人を犯しつつ南カリフォルニアまで下った。

そこでオーティスは「二人で幸せになりな」と言って別れた。

ルーカスはベッキーといられるならなんでもする覚悟だった。

はじめ、住み込みの家具職人の仕事をすすめられてふたりはテキサスへ向かった。

だが流れ者のふたりを、土地の人間は信用しなかった。

仕方なくルーカスとベッキーはファンダメンタリストの説教師のもとに身を寄せることになる。

そこは「祈りの家」と呼ばれる、信徒だけの村だった。

ルーカスにとって、そこは我慢ならない場所だった。

まず酒が飲めない。信仰心とやらもぴんと来ないものだった。

しかしベッキーはそこにすぐ馴染んだ。

彼女はすぐさま信仰に染まり、愛する「パパ」に、説教をして真人間になれと諭した。

悶々とするルーカスのもとに、相棒オーティスが戻ってきた。

ルーカスがベッキーの変わりようを訴えると、彼は笑って「すぐ飽きるさ」と言った。

二人はベッキーを残し、ふたたび殺人の旅に出た。

しばらくして戻ってみると、もうフリーダは「彼の天使・ベッキー」ではなくなっていた。

ルーカスは彼女を連れ戻すつもりだったが、彼女は「祈りの家」を離れたくないと言いはり、彼にとっては皆目意味のわからない、神だの原罪だのという言葉をふりかざした。

ルーカスは狼狽し、ベッキーは自分の言葉に耳を貸さない彼に逆上してその頬を殴った。

それから後は、ほとんど条件反射的に行なわれた。

ルーカスは気がついたときには、この世でもっとも愛するものの喉を切り裂いていたのだった。

彼はしばらく呆然としていたが、やがて我に返り、その場に泣きくずれた。

”ごめんよ、ベッキー。ああ、愛していたのに。どうしてこんなことになっちまうんだろう”

ルーカスは相棒と一緒に彼女をバラバラにして埋めた。

この一件でルーカスの精神は完全に折れた。

感情の赴くままにベッキーがなついていたグラニー・リッチを惨殺する。

もはやそこで証拠を隠したり逃亡する時間を稼ごうなどという計算は消えていた。

すぐさまルーカスに疑いの目が向けられ、この稀代の殺人者は銃器不法所持の容疑であっさりと逮捕されたのであった。

ルーカスの車からは大量の人骨が見つかり、驚いた警察の前でルーカスは約3000件にも及ぶ殺人を自供した。

「360人殺しルーカス」の異名はこのときについたものだ。

しかし裏付けのとれた事件はそのごく一部で、実際は360人も殺していないとする説も存在する。

非常に詳しい自供をしたため「これは間違いない」と警察が調べに行くと、殺されたはずの本人がピンピンしていた――などという例も彼の犯罪の立証を困難にしていた。

相棒のオーティスも精神異常と虚言癖の持ち主で犯罪を立件できたのはわずか11件にとどまったが、推定で300人以上に及ぶのは間違いなさそうであった。

ルーカスが自分が犯した殺人に対する記憶力は常人それではなかったからである。

後にルーカスは監房のなかで初めて宗教に目覚めてカトリックとなり、鉄格子越しに今までの自身が起こした捜査、解決に協力している。

ルーカスは、自分の中にどうにもならない闇があることを誰よりも承知していた。

”他人といると、緊張しちゃって落ちつかないんだ。ずっと人といるのに馴れてなかったからかな。ほんと、ずっと一人だったからね――

話すのも苦手だな。医者ってさ、俺のこと、どこもおかしくないっていう奴、けっこういたな。でも俺みたいな低脳にだってわかる。俺はおかしいって、わかってる。

だってそうじゃなかったら、あんなに殺しばっかりするはずないもんな。でも仕方ないのさ。

なにかが俺にそうさせるんだ。でもそれって治療できないんだろ?だったら、しょうがないじゃないか”

心理学者ノエル・ジョリスは彼をこう表現した。

”彼は感情的にも社会的にも10歳未満ですでに死んだ人間なのです。この独房で彼がいくらか人間的な発達を見せたとしてもそれが完全になることはないでしょう。

彼にはもはや他人への感情移入というものが決定的に失われてしまっていて、それが回復する見込みはありません”

幼いころの母ヴィオラの折檻で、ルーカスは前頭葉、側頭葉、脳下部にまで大きな障害が残されており、慢性的な栄養失調とドラッグで脳は正常な成長をずっと阻害されていたのだった。

テキサス州裁判所はルーカスに死刑を言い渡した。

それは1998年に執行されるはずであったが、時のテキサス州知事により執行は見合わされた。

しかし2001年、ルーカスは心臓発作をおこし永遠の眠りについた。64歳であった。

遺体を引き取りに来た身内はいなかった。

”人間?うん、それは俺にとって何でもなかった。ただの、白紙だった”

 

信じるか信じないかは貴方次第。

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